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神皇正統記
斉明
斉明天皇は皇極の重祚なり、重祚と雲事は、本朝には是にはじまれり、異朝には殷の大甲不明なりしかば、伊尹是お桐宮にしりぞけて、三年政おとれりき、されど帝位おすつるまではなきにや、大甲あやまちお悔て徳おおさめしかば、本のごとく天子とす、晋の世に桓玄と雲し者、安帝の位おうばひて、八十日ありて義兵のためにころされしかば、安帝位にかへり給ふ、唐の世となりて、則天皇后世おみだられし時、我所生の子なりしかども、中宗おすてヽ盧陵王とす、おなじ御子予王おたてられしも、又すてヽみづから位に即給ふ、後に中宗位にかへりて、唐の祚たえず、予王も又重祚あり、これお叡宗と雲、これぞまさしき重祚なれど二代にはたてず、中宗叡宗とぞつらねたる、我朝に皇極の重祚お斉明と号し、孝謙の重祚お称徳と号す、異朝に替れり、是天日嗣お重くするゆえ歟、先賢の義さだめてよしあるにや、