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大鏡
一宇多
この御門いまだ位につかせ給はざりけるとき、十一月廿よ日の程に、かものみやしろのへんに、たかつかひあそびありきけるに、かものみやうじんたくせんし給ひけるやう、此へんに侍るおきなどもなり、はるはまつり多侍り、ふゆのいみじくつれ〴〵なるに、まつり給はらんと申たまへば、そのときにかものみやうじんのおほせらるヽとおぼえさせ給ひて、おのれはちからおよび候はず、おほやけに申させ給ふべき事にこそさぶらふなれと申させ給へば、ちからおよばせ給ひぬべきなればこそ申せ、いたくきやう〳〵なるふるまひなせさせ給ふぞ、さ申やうありとて、ちかくなり侍るとて、かいけつやうにうせ給ひぬ、いかなる事にかと心えずおぼしめす程に、かく位につかせたまへりければ、りんじのまつりせさせたまへるぞかし、かもの明神のたくせんしてまつりせさせ給へと申させ給ふ日、とりの日にて侍りければ、やがて霜月のはてのとりの日、臨時の祭は侍るぞかし、