[p.0334][p.0335]
代始和抄
御即位事
即位の日は、大極殿の高御座およそひ飾る、太政官庁にて行はるヽ時は、高御座おうつさるヽ也、南階おさる事十一丈に、銅烏の幢おたつ、その東に日像の幢、朱雀青竜の旗等おたつ、西には月像の幢、白虎玄武の旗等おたつ、東庁の西に内弁の幄あり、其内に兀子おたつ、中階の南七丈おさりて火炉二つあり、典儀賛者の版、左右近次将の胡床つねのごとし、すべて文武の百司、おの〳〵威儀の物おとりて庭中の東西に列立す、外弁の公卿は民部省の庁代の幄に著す、其時に主上冕服お著し給ふて、後方より出御ありて高御座に著せ給ふ、内侍二人、命婦四人、おの〳〵礼服お著して前後に候す、御座定て後、十八人の女孺、翳おとりて左右よりわかれすヽむ、翳といふは円座の様なる物に柄おつけてたかくさしおほふ也、これは天子の竜顔お左右なく人にみせざらんための儲也、次に褰帳の女王二人、左右よりすヽみて高御座の南のかたの幌おかヽぐ、此時にいたりて二九の女孺、翳お伏すれば、宸儀はじめて見え給ふ、群臣おの〳〵面伏す、主殿図書寮のつかさ火炉のもとにつきて香お焼、この香は天子位につかせ給ふよしお天に告る焼香なり、宣命使の人版位につきて制旨おのぶ、群臣再拝舞踏す、武官旗おふりて万歳お称す、事終らむとする時に、左の侍従座おたちて御前に進む、その進退傍行あり、膝行あり、循巡して御前にあたりて笏お引て礼畢お奏す、その音高長なるべし、北山抄に見えたり、これは今日の大礼、事おはりぬるよしお天子にしらせ奉る義なり、二九の女孺、翳おたてまつる事さきの如し、褰帳二人すヽみよりて御帳お垂、そのヽち天皇後房へ帰り入せ給ふ、兵庫のつかさ鉦おうち鼓おならして、百司の出入お告る事、くはしく式文にのせたり、