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代始和抄
御即位事
即位といふは、天子受禅の後、まさしく南面の位につかせ給て、はじめて百司万民に竜顔お見えさせ賜ふよし也、その月はさだまれる月なし、其所はむかしより大極殿の高御座につかせ給てこの事おおこなはる、しかるに冷泉院は紫宸殿に出御ありて即位の儀あり、この御門は御邪気おいたはらせ賜ひしによりて、大極殿までは行幸なかりしにや、又後三条院治暦四年の御即位は、大極殿焼失の後、いまだ造作なきによりて、太政官庁にして行れ侍り、其後安徳天皇治承四年の御即位も紫宸殿にして行はる、これも大極殿焼失せしが故なり、後鳥羽院元暦元年は又太政官庁にして即位の事有、それより後は一向に官の庁にて行はるヽ事となれる也、