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御即位次第抄
御即位庭上幢鉾
烏形幢〈又銅烏幢と雲、〉
紫宸殿南階より十一丈ばかり南の方庭上に、烏形、日月像、四神等七本の幢お並べ立つ、此幢は其中央に立たり、上に金銅の烏お台に居たり、台のめぐりに纓絡お飾れり、幢の柄は黒塗にして、此幢のみ五彩お以て雲の形お画けり、
日像幢
銅烏幢の東に立つる、上に金漆塗の丸き板に、三足の烏お画けり、円像の端に金塗のほそき串十七本させり、幢は黒塗なり、金漆塗の丸き輪九つお以て柄お貫けり、
月像幢
銅烏幢の西に立つる、上に銀漆塗の丸き板に、銀の兎蟾蜍と月桂樹と瑠璃色の臼とお画けり、円形の端に銀塗のほそき串十七本おさせり、幢の柄は日像に同じ、
四神旗
青竜朱雀は、日像の幢の東に並び立ち、白虎玄武は、月像の幢の西に並び立てり、白き絹の繧繝端取たるに、其中に四神像お画けり、幟は各四筋也、白き絹に赤き端お取たり、上に片刃の戟お加へたり、此上七本の幢は、紫宸殿の南階より十一丈〈右八十五丈四尺〉ばかり南方の庭上に並び立てり、高さ各五十尺ばかりにて、相去こと十尺ばかり、
幢の台
何れも銅烏幢の如し、故に略す、
竜像纛
右七本の左右に是お立つ、上に黒色の形は赤熊のやうなる纛と雲ものお居たり、古は黒毛の馬尾三十把お以て作れりとぞ、興胤の私記に、纛は犂牛の尾なれば、古は牛の尾にて作るなるべしと雲に、今は苧お黒く染めて用ひらる、但し左右の長短制作の違ひある歟、東の方は赤き絹に金色の竜お画き、西の方は黄色の絹に青竜お画り、端は繧繝端なり、幟は四筋にして赤き端お取たり、其中に白き絹に図の如く彩色お加へり、
万歳旗
竜像纛の南に左右各万歳の旗お立つ、上に矛お加へて、東の方の旗は、赤き絹に金色にて万歳の二字お篆字に書けり、端の是も繧繝端なり、是より南、鷹幢六旒、台は毛綿に虎被お画かきて覆ふ、
鷹像幢
左右各三旒宛、万歳幢の南に各東西三旒宛此幢お立つる、東の方の幢は、黄色にして同く鷹形お画けり、端は是も繧繝端なり、上に矛お加へたり、右纛の幢より鷹像幢まで拾株、幢の高さ各三丈ばかりなり、
近衛之陣之鉾
鷹像幢の南に左右に各一丈ばかりなる此鉾お五株宛立たり、是は近衛の陣なり、又南殿の階の許にも此鉾お三株宛立たり、是は近衛次将胡床の前、又左右の大将代の前にも、此矛より尺の小さき矛一株づヽ立たり、
白銅火炉
火炉は紫宸殿の南階より七十尺ばかり、南の方の庭上に置けり、榻二箇お左右に居え、其上に火炉お置けり、火炉は左右に各一つ宛置く、火炉の径り二尺ばかり也、是は図書進て、天皇位に即せ玉ふ由お天に告る香お焼く火炉なり、
香納桶
香納桶は火炉の南の方一丈ばかり隔てヽ高案お二つすえ、上に金漆塗の曲物に、草花お画ける香合お左右各一つお居、是所謂香納桶也、興胤か見聞私記に曰、是れ香奩と申すものにやと雲々、
内弁之幄〈宮の作にして、まわりは幕にてかこひまわしたる殿也、かり立のもの也、〉
内弁の幄は右近橘の西にあり、東面して棟も東向に造れり、青白の布お以て屋根お雑へ張り、同青白の染雑へたる幕にて囲へり、昔は纈紅と雲ものに染たる幕にて囲へるとかや、其幄の中に兀子お設たり、外弁の幄は、右掖門の月花門の外西南にあり、
左右近衛之幄
内弁の幄に大概似たり、左右掖門〈日花、月花、〉の内南の方に是お造る、左右東西に相対す、棟は南北にして内弁の幄と同じからず、
高御座
高御座は紫宸殿の中央に飾り玉ふ、方一丈三尺にて、東西は少し長し、西東北の三方には階ありて、南方には階なし、其蓋は鳳輦の形に似て八角に作れり、八つの隅ごとに上に小き鳳凰お立て、下に玉の幡おかけたり、又八の面ごとに鏡三面宛お立たり、蓋の上に大なる鳳凰一つお立たり、高御座のめぐりには紫の帳お掛、紫帳の外の椽お壇と雲ふ、壇の東西に大宋の屏風お立て円座お敷き摂政の座お設く、外椽に布氈お敷、朱塗の欄干お作れり、都て高御座は皆黒き漆にて塗り、中に茵、剣案一脚、璽案一脚、高御座の内に玉座お設く、繧繝端の畳二帖お敷、御茵二重お敷けり、玉座左右に剣璽お置奉る案あり、玉座の後ろに白き几帳お引けり、御座の頂に大きなる鏡一面お掛たり、