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玉露叢

御即位記
一寛永七年九月十二日御即位〈◯明正〉之事あり、退散の後厩橋侍従忠世〈◯酒井〉佐倉侍従利勝〈◯土井〉周防守重宗〈◯板倉〉施薬院にして装束お改め内裏へ参らる、両伝奏先入て奏す、今度の御位お賀し申さるヽ将軍家よりの御使厩橋侍従進み参らる、常の御大刀に御馬代白銀千両進ぜらる、院へ常の御大刀御馬代白銀五百両、皇太后へ同く五百両進ぜらる、大相国の御使佐倉侍従参らる、御進物の目録何も前に同じ、此外白銀千両女官中へくばり玉ふ、皆是慶長十六年の例なりとぞ聞へける、厩橋侍従佐倉の侍従天盃天酌玉りて退出せらる、尾張大納言の使者竹腰山城守、紀伊大納言の使者安藤帯刀、駿河大納言の使者鳥居土佐守、水戸中納言の使者中山内記、皆上洛して各伝奏お以て進物お捧らる、其外諸大名御悦の捧物あり、官位の尊卑によりて差あり、乃至食封十万斛以上の人悉く皆捧物お奉る、いともかしこく目出たし、廿七日、勅使両伝奏衣冠にて厩橋侍従佐倉侍従のもとへ立向ひ、名作御大刀〈并〉寮の御馬お各へ玉りければ、両侍従も装束およそひて対面し、其たまものお戴て辱もかしこまりて申さる、其主お敬するの余りは、其使に及すの礼儀なるべし、〈◯節略〉