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栄花物語
三十六根合
内〈◯後朱雀〉の御にきみの事、なほおこたらせ〈◯原本作おもらせ、拠一本攺、〉給はねば、いかにとむづかしう覚しめす、ついたちのありさまなどおなじ事也、日ごろのすぐるまヽに、なほ水などいさせ給てやよからんと申せば、其さほふの御しつらひしていたてまつる、いとさむきころたへがたげにみえさせ給、〈◯中略〉寛徳二年正月十六日に位ゆづりの事ありて、春宮〈◯後冷泉〉わたらせ給、糸毛にて参らせ給、いといみじき御ありさまお、よそにおぼしめしつるよりもいみじうかなしくおぼしめさる、いみじうなかせ給へば、かくななき給そ、上東門院〈◯彰子〉によくつかうまつり給へ、二の宮〈◯後三条〉思ひへだてずおぼせなど申させ給へば、御かほに袖おおしあてヽおはします、ときなりぬと申せどとみにもえうごかせ給はず、内侍御はかしのはこ給はすれば、かみあげてとる、心ちいみじうて、つヽみもあへずまが〴〵しとてさいなむ、水はたてまつればいとたへがたし、この世にてだにしばしやすめよとおほせらる、いみじうかなし、いたく夜ふけてかへらせ給、上達部殿上人さながらつかうまつり給、おなじ事なる御事なれど、御車にておはしましつるお、御輿にてかへらせ給いみじうめでたし、