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吉野拾遺

同じ八月〈◯延元四年〉のはじめごろより、秋霧におかされさせ給ひけるが、かねて時おもしろしめしけるにや、同十五日の夜親王〈◯後村上〉お左大臣経忠公の亭にうつし奉らせ給ひ、三種の御たからお譲りおはしまし、御行末のこといとこまやかに仰せ置れて、御剣と法華経とお左右の御手にものし給ひ、いざよひの月と共に雲隠れさせ給ひけるに、附従ひ奉りし人々は、たヾ闇路にまよふこヽちなんし給ひける、