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栄花物語
三十三きるは佗しと歎女房
内〈◯後一条〉の御なやみ、日おへておもらせ給て、四月十五日〈◯長元九年〉ばかりより、日ごとにたえいらせ給、女院〈◯彰子〉中宮〈◯妍子〉涙にくれておはします、〈◯中略〉つひに四月十七日のゆふかたうせさせ給ぬれば、所がら院も宮もおなじさまにておはしませば、きこえさせわづらひて、かくてのみはいかでかとて、御せうとの殿ばらぞ、しもの御つぼねに、御そにおしくくみていておろしたてまつらせ給、いましばしだにのどかに見たてまつらせ給べきお、御心にもあらず、いみじうおぼしまどはせ給、御こえもり聞えつヽいといみじ、世中ゆすりみちたるここちするに、たしかに聞えさする人もなけれど、一品宮〈◯修子〉のおさなげになかせ給もいみじうあはれなり、いつのまにか東宮〈◯後朱雀〉の御かたには除目ありて、頭五位蔵人六位蔵人などよろづにみな師子こまいぬ、ひのみづし、御はかしなどわたり、ひきかへたるありさま夢の心ちなむしける、れいのさほふに御めのとごども、のりたふのいよのかみ、たねつな、のりふさ、よしみちなど、つかうまつる心ちども思やるべし、かねふさの中宮の亮、いひつヾけてなく声のおどろ〳〵しきもあはれなり、むかしはかく位にてうせさせ給は、まさなき事おほく、ところせかりけれど、今のよはさるきびしき事もなし、