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増鏡
三藤衣
貞永元年になりぬ、十月四日おりいさせ給ふ、御なやみおもきによりてなりけり、こぞの二月、后の宮の御腹に、一の御子〈◯四条〉いでき給へりしかば、やがて太子に立せ給ひしぞかし、うへ〈◯後堀河〉はおりさせ給ひて、その七日やがて尊号あり、御なやみ猶おこたらず、大かた世も静ならず、この三年ばかりは天変しきり、ないふりなどしてさとししげく、御つヽしみおもきやうなれば、いかヾおはしまさんと、御心どもさわぐべし、〈◯節略〉