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愚管抄

承久四年九月卅日、はヽき星とて、久しく絶たる天変の中に、第一の変と思ひたる彗星いでヽ、夜お重ねて久く消ざりけり、世の人いかなる事かとおそれたりけり、〈◯中略〉御つヽしみはいかヾとて有程に、同十一月十一日に、又出きにけり、そのたび司天のともがらも大に驚き思ひける程に、上皇〈◯後鳥羽〉信お出して御祈念など有けるに、御夢の告の有けるにやとぞ人は申ける、忽に御譲位の事お行はれて、承元四年十一月廿五日に受禅〈◯順徳〉の事ありけり、〈◯中略〉誠にも彗星この御譲位の事にて有ければにや、上皇の御つヽしみは、いともなくてやみにける也、
◯按ずるに、後鳥羽天皇、久しく順徳天皇の受禅お望み給ふ、会彗星の変ありしかば之お以て辞として、土御門天皇の御譲位お促し給ひしなり、