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増鏡
十老の波
弘安も十年になりぬ、この御門〈◯後宇多〉位につき給て、十三年ばかりになりぬらん、本院〈◯後深草〉まちどほにおぼさるらん、いとおしくおしはかりたてまつるにや、例の東より奏する事あるべし、新院〈◯亀山〉の御かたざまには、心ぼそうきこしめしなやむべし、〈◯中略〉よろづあかずおぼさるヽほどなれど、そのとしの十月におりいさせ給、もとのうへは、廿一にぞならせ給ける、御本上もいとうるはしく、のどめたるさまにおぼして、すぐよかに、御才もかしこうめでたうおはしませば御まつり事などもやう〳〵ゆづりや聞えましなどおぼされつるに、いとあへなくうつろひぬる世お、すげなく新院はおぼさるべし、