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北条九代記
十一
伏見院御即位
弘安十年十月廿一日、京都には主上〈◯後宇多〉御譲位の事あり、〈◯中略〉亀山の新院も、隻今の御譲位は余に早速の御事なれば、いまだ遅からず、御残り多くおぼしめし、主上も本意ならずと聞えさせたまへども、後深草の本院強に待兼させたまふべし、隻疾く御位おゆづらせたまはんは、然るべき太平比和の御基たるべき旨、関東より奏し申せば、御心のまヽならず俄に御譲位有て、東宮熙仁〈◯伏見〉御位につかせたまふ、
◯按ずるに、後嵯峨天皇、次子亀山天皇お鐘愛して、皇統お其裔に伝へんことお遺詔し給ふ、長子後深草天皇懌ひ給はず、密かに北条氏に諭し給ふ所あり、此に依て両統迭立の策お献ずることヽなれり、なほ践祚篇、両統更立の条お参看すべし、