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北条九代記
十一
後伏見院御譲位
正安三年正月に、鎌倉よりの使節として、隠岐前司時清、山城前司行貞上洛して、主上〈◯後伏見〉の御位お下し奉り、東宮〈◯後二条〉へゆづり奉り給ふ、主上今年いまだ十四歳、御在位わづかに三年にして、何の御事もおはしまさヾりけるお、押おろし奉ること、天道神明の照覧もいかヾ、恐ろしとぞ心ある人は申合れける、〈◯中略〉王道久しく廃して、政事に付ては万叡慮に任せられず、天下はこれ天子の天下にあらず、又天下の天下にもあらず、関東より計らひ奉り、武家の天下なりけることヽ申す人も多かりけり、