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細川家記
忠興
京に而禁中向之儀承候、主上之御事は不及申、公家衆も事之外、物きれたる体と申、主上御不足之一つには、公家中官位御まヽに不成との事、又は御料所加増にて被遣、金銀も折々被遣候へ共、是も毛頭御まヽに不成候、右之分に候へば、何お以公家衆へ感不感可成御立様も無之候、其上八木金銀御遣なきによりたまり申候お、利分お付奉行共より人に借付申候、如此之故、人之口にて候へば、王之米何程借り候、金銀いかほど借り候と口ずさみ申候、神代より禁中に無之例に候お、今主上〈◯後水尾〉の御代に当り、か様の事無御存知事故、後代のそしり御請被成候事、何より口惜思召候由、又は大徳寺妙真寺長老なり、不届と武家より被仰、或衣おはがれ被成御流候へば、口宣一度に七八十枚もやぶれ申候、主上此上之御恥可有之哉との儀、又かくし題には、御局衆のはらに、宮様達いか程も出来申候おおしころし、又は流し申候事、事の外むごく御無念に被思召由候、いくたり出来申候共、武家の御孫より外は御位には付被申間敷に、余りあらけなき儀とふかく被思召由候、此外未数御入候へ共忌申候、此前いつの時分やらん、
おもふ事なきだにやすくそむく世にあはれすてヽもおしからぬ身お、と被遊候由、此はてのおとまりは、残るてにおはと申物かと存候、よせいかぎりなき御製と世上に申由に候、案の如く御位おすべらせられ候、後は不存、つよき御事と存候事、