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増鏡
八山の紅葉
弘長三年きさらぎのころ、大かたの世のけしきもうらヽかにかすみわたるに、春風ぬるく吹て、亀山殿の御まへの桜ほころびそむるけしき、つねよりもことなれば、行幸あるべくおぼしおきつ、〈◯中略〉新院〈◯後深草〉も、両女院〈◯京極院吉子、東二条院公子、〉もわたらせ給、御まへの汀に、舟どもうかべて、おかしきさまなる童、四位のわかきなどのせて、花の木かげよりこぎいでたるほどになくおもしろし、舞楽さま〴〵きよらなる手おつくされけり、御あそびのヽち、人々うたたてまつる、