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太平記

主上上皇為五宮被囚給事附資名卿出家事
去程に五宮〈◯参考太平記引、金勝院本、作五辻兵部卿親王宮、按五辻宮、名守良、亀山皇子也、〉の官軍共、主上上皇お取進らせて、其日先長光寺へ入奉り、〈◯中略〉今迄附纏ひ進らせたる卿相雲客も、此彼に落留り、出家遁世して退散しける間、今は主上春宮両上皇の御方様とては、経顕有光卿二人より外は、供奉仕る人もなし、其外は皆見馴ぬ敵軍に前後お打囲まれて、怪しげなる網代輿に召れ、都へ帰上らせ給へば、見物の貴賤岐に立て、あら不思議や、去々年先帝〈◯後醍醐〉お笠置にて生捕進らせて、隠岐国へ流し奉りし其報、三年の中に来りぬる事の浅ましさよ、昨日は他州の憂と聞しかど、今日は我上の責に当れりとは、加様の事おや申すべき、此君も又、如何なる配所へか遷されさせ給ひて、宸襟お悩されぬらんと、心あるも心なきも、見る人毎に、因果歴然の理お感思して、袖お濡さぬは無りけり、