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大和物語

亭子のみかど〈◯宇多〉とりかひのいんにおはしましにけり、れいのごと御あそびあり、此わたりのうかれめども、あまたまいりてさふらふ中に、声もおもしろく、よしあるものは侍りやととはせ給に、うかれめばらの申やう、大江のたまぶちがむすめといふものなん、めづらしうまいりて侍と申ければ、見させ給ふにさまかたちもきよげなりければ、あはれがり給ひてうへにめしあげ給、そも〳〵まことかなどとはせ給ふに、とりかひといふだいお、人々によませ給ひにけり、仰給ふやう。玉淵はいとらうありて、歌などよくよみき、このとりかひといふ題お、よくつかうまつりたらん人にしたがひて、まことの子とはおもほさんとおほせ給ひけり、うけ給はりてすなはち、
 浅みどりかひある春にあひぬれば霞ならねどたちのぼりけり、とよむときに、みかどのヽしりあはれがり給て、御しほたれ給ふ、人々もよくえひたるほどにて、えひなきいとになくす、みかど御うちきひとかさねはかま給ふ、ありとある上達部みこたち、四位五位これにものぬぎてとらせざらんものは、座よりたちねとのたまひければ、かたはしより上下みなかづけたれば、かづきあまりて、ふたまばかりつみてぞおきたりける、〈◯又見大鏡、十訓抄、古今著聞集、〉