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続古事談
一王道后宮
円融院、大井川に御幸ありけるに、先少井寺の前に仮屋おたてヽおはします、大入道殿、〈◯藤原兼家〉摂政の時御膳まうけられけり、茶碗にてぞありける、其後御船にたてまつりて、となせにおはしましけり、詩歌管絃おの〳〵船ことなり、源中納言保光卿、題たてまつる、玩水辺紅葉とぞ、詩の序右中弁資忠、和歌の序大膳大夫時文つかうまつれり、法皇御衣おぬぎて、摂政にたまふ、摂政又衣おぬぎて、大蔵卿時仲に給けり、管絃の人々、上達部きぬおかづけられけり、内裏より、頭中将誠信朝臣御使にまいれり、禄おたまひてかへりまいる、摂政管絃の船に候、時仲の三位おめして、院の仰お伝て参木になされけり、人々ひそかに雲ひける、主上の御前にあらず、たちまちに参木おなさるヽ事、いかヾあるべきとかたぶきけり、今日の事、何事も興ありていみじかりけるに、此ことにすこし興さめにけり、