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続世継
二白河の花宴
保安五年〈◯天治元年〉にや侍けむ、きさらぎにうるふ月侍し年、白河の花御らんぜさせ給とて(○○○○○○○○○○○○○)みゆきせさせ給しこそ、世にたぐひなきことには侍りしか、法皇〈◯白河〉も、院〈◯鳥羽〉も、ひとつ御車にたてまつりて、御随身にしきぬひもの色々にたちかさねたるに、かんだちめ殿上人、かりさうぞくにさま〴〵にいろおつくして、われも〳〵とことばもおよばず、こがの太政のおとヾ〈◯源雅実〉も御むまにて、それはなおしにかうぶりにてつかふまつり給へり、院の御車のしりに、待賢門院〈◯璋子〉ひきつヾきておはします、女房のだしぐるまのうちいでしろがねこがねにしかへされたり、女院〈◯璋子〉の御車のしりには、みなくれないの十ばかりなるいだされて、くれないのうちぎぬ、さくらもえぎのうはぎ、あか色のからぎぬに、しろがねこがねおのべて、くわんのもんおかれて、地ずりのもにもかねおのべて、すはまつるかめおしたるに、ものこしにも、しろがねおのべて、うはざしは、玉おつらぬきてかざられ侍りける、よしだの斎宮〈◯鳥羽皇女妍子〉の御はヽやのり給へりけんとぞきこえ侍し、又いだし車十両なれば、四十人の女房、おもひ〳〵によそひども心おつくして、けふばかりは制もやぶれてぞ侍ける、あるひはいつヽにほひにて、むらさき、くれない、もえぎ、やまぶき、すはう、廿五かさねたるに、うちきぬ、うはぎ、もからきぬみなかねおのべてもむにおかれ侍けり、あるはやなぎさくらおまぜかさねて、うへはおり物、うらはうち物にして、ものこしにはにしきに玉おつらぬきて、玉にもぬける春の柳かといふうた、柳さくらおこきまぜてといふうたの心なり、もはえびぞめおぢにて、かいふおむすびて、月のやどりたるやうに、かヾみおしたにすかして、花のかヾみとなる水はとせられたり、からぎぬには日おいだして、たヾはるの日にまかせたらなんといふうたの心なり、あるはからぎぬににしきおして、桜の花おつけて、うすきわたおあさぎにそめてうへにひきて、野べのかすみはつヽめどもといふ歌の心なり、はかまもうちばかまにてはなおつけたりけり、このこぼれてにほふは、七宮と申御母のよそひとぞきヽ侍し、御車ぞひのかりぎぬはかまなどいろ〳〵のもんおしなどして、かヾやきあへるに、やりなはといふものも、あしつおなどにやよりあはせたる、色まじはれるみすのかけ緒などのやうに、かな物ふさなどゆら〳〵とかざりて、なに事もつねなくかヾやきあへり、摂政殿〈◯藤原忠通〉は御車にて、随身などきらめかし給へりしさま申もおろかなり、法勝寺にわたらせ給て、花御らんじめぐりて、白河殿にわたらせ給て、御あそびありて、かんだちめのざに、御かはらけたびたびすヽめさせ給て、おの〳〵歌たてまつられ侍りける、序は花ぞのヽおとヾ〈◯源有仁〉ぞかき給けるとなんうけ給はり侍し、新院の御製など、集にいりて侍るとかや、女房のうたなど、さま〴〵に侍りけるとぞきヽ侍し、
 よろづよのためしとみゆる花の色おうつしとヾめよ白河の水、などぞよまれ侍りけるときき侍し、みてらの花、雪のあしたなどのやうにさきつらなりたるうへに、わざとかねて、ほかのおもちらして庭にしかれたりけるにや、うしのつめもかくれ、車のあしもいるほどに、花つもりたるに、こずえの花も、雪のさかりにふるやうにぞ侍りけるとぞ、つたへうけ給はりしだにおもひやられ侍りき、まいて見給へりけん人こそ、おもひやられ侍れ、〈◯又見古今著聞集〉