[p.0742]
古今著聞集
十四遊覧
白河院、深雪の朝、雪見に御幸有べし(○○○○○○○○)とて、御供の人少々めさるヽ事ほのきこえし程に、やがて出御ありて、おもしろき雪かないづかたへかむかふべき、小野皇太后宮〈◯後冷泉后歓子〉のもとへむかはヾやと仰られけるお、御随身承はりて、従者お馬にのせて、彼宮へはせまいらせて、かヽる事にすでに御車奉りて候也、御用意候べしと申たりければ、紅の衣五具有けるお、せはりにふつときりて、寝殿十間になんいだされたりけり、みづから入て御らんずる事もあらばいかヾと申人有ければ、皇太后宮、雪見る人は、内へ入事なしとて、さわぎたる御けしきなくてなんおはしましける程に、やがて御幸なりて、御車やり入て、階隠の間にさしよせておはしましければ、みきおなんすヽめ奉られける、朽葉のかざみきたる童二人、ひとりは沈折敷に、玉のさかづき、銀のさらに、金の橘一ふさおもられたるおもちたりけり、一人は片口のてうしに、さけお入て持たり、二人の童、寝殿のまへおへて、階の子おなヽめにおり下て、御車へまいりけるさまいみじく優になん見え侍る、酒はうるはしうならせ給ける、橘は季道御供に候けるに給はせけり、上皇かへらせおはしましけるまヽに、ゆかしくなつかしき世にこそおはしましけれとて、荘一所まいらせたりければ、隻今御幸なるよしつげまいらせたりける御随身になんあづけ給ける、〈◯又見十訓抄、続世継、寝覚記、〉