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増鏡
七北野の雪
そのとし〈◯文永四年〉なが月のころ、左のおとヾ〈近衛殿◯藤原基平〉の日野山荘へ、一院、〈◯後嵯峨〉新院、〈◯後深草〉大宮院〈◯後嵯峨后吉子〉御幸あり、世になききよらおつくさる、銀金の御さらども、螺鈿の御台、うち敷、めなれぬほどの事どもなり、院の御分御小直衣皆具、夜の御衾、白御大刀、御馬二匹、からあや魚綾などにて、二階つくられて、御双子箱、御すヾりは世々おへておもきたからの石なり、管絃の御厨子、楽器色々のあやにしきなどにてつくりておかる、女院の御かた、新院の御ぶんなども、おなじやうなり、大納言二位殿にも、装束まもりのはこまで、いとなまめかしうきよらなる物どもぞありける、上達部殿上人にも、馬牛ひかる、銀のかたみお五くませて、松茸入らる、山へみないらせおはしまして御らむのヽち、御かはらけいく返となくきこしめせば、人々もえひみだれ、さまざまにてすぎぬ、