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栄花物語
三十一殿上花見
斎院に、つひにひめ宮〈◯後一条女馨子〉さだまらせ給ぬれば、みかど〈◯後一条〉后〈◯馨子御母威子〉おぼしさわがせ給事、かぎりなし、〈◯中略〉八月三十日、〈◯長元五年〉に中宮行啓あり、蘇芳のこくうすきにほひなどに、くさのかうの御ぞなどたてまつる、いとおかしうなまめかしくめでたき御ありさま也、月頃の程に、こよなくおとなびさせ給にけるお、あはれにみたてまつらせ給、ふつかばかりおはしましてかへらせ給お、いとあかずくちおしうおぼしめさる、うちの御つかひの、霧おわけてまいるもいとおかしうおぼしめさる、〈◯中略〉ことし〈◯長元六年〉も十月に、斎院に行啓あり、このたびは五六日ばかりおはします十月廿よ日庚申なるに、上達部殿上人まいり、あそびのかたの人も、ふみの道の人々もめしあつめ、のこりなくまいりて、歌よみあそびなどあり、げらうも、そのみちの人はまじりたり、〈◯中略〉のどかにもおはしますべけれど、あかでかへらせ給も、かヽる御有様にはくるしげなりやとぞ、