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増鏡
九草枕
文永十一年正月廿六日、春宮〈◯後宇多〉に位ゆづり申させ給、〈◯中略〉新院〈◯亀山〉は世おしろしめす事かはらねば、よろづ御心のまヽに、日ごろゆかしくおぼしめされし所々、いつしか御幸しげう花やかにてすぐさせ給、いとあらまほしげなり、本院〈◯後深草〉はなほいとあやしかりける御身のすくせお、人の思ふらん事もすさまじうおぼしむすぼヽれて、世お背かんの設けにて、尊号おも返し奉らせ給へば、兵仗おも止めんとて、御随身どもめして、禄かづけ、いとまたまはする程、いと心細しと思ひあへり、