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讃岐典侍日記

六月廿日〈◯嘉承二年〉の事ぞかし、内〈◯堀河〉は例ざまにもおぼしめされざりし御けしき、ともすればうちふしがちにて、〈◯中略〉七月六日より御こヽち大事に重らせたまひぬれば、〈◯中略〉参りて見れば、殿や〈◯忠実〉大臣殿〈◯雅実〉など、院〈◯白河〉より戒うけさせ給ふべきなりと奏せさせ給うけりとて、せんせい法印めすべきさたせられ、其御もうけどもせらるヽ程なりけり、〈◯中略〉今は法印めし入よとてふたまなる磬など参らせて、戒のさたせさせたまふ、法印まいらせ給ひぬれば、みき丁ばかりへだてヽ、御なほしとりてまいれと仰らるれば取て参りたり、御手水まいらすべけれど、おきあがらせ給ふべきやうなければ、紙おぬらして御手などのごはせ参らせなどする程ぞかなしき、御かうぶりなど持てまいりたれば、するかせぬかのほどにおし入て、御なほし引かけて参らせたる、御ひもさヽむとおぼしめしたるなめり、ささんとせさせ給へど御手もはれにたればえさヽせ給はぬ、みる心ちぞ目もくれてはか〴〵しう見えぬ、かね打ならして事のおもむき申あきらめ給ふ、十戒お先の世にうけさせ給ひてやぶらせ給はざりければこそ、此世にて十善の位ながくたもち、仏法おあがめ、一切衆生おあはれみさせ給ふ心、いまだむかしより今に至るまでかばかりの帝王おはしまさず、いとヾこよひの御戒のしるしに、すみやかに御悩消除せうさんして、百年の御命ながくたもたしめ給へと申さるヽ、きくにたヾ今やませたまひぬるときこえてめでたき、さて御戒うけさせまいらすれば、いとよくたもつ〳〵と仰らるヽ、殿たちたもつと仰らるヽやと申させ給へばうなづかせ給ふ、