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更衣は、天皇の御衣お更させ給ふ便殿お謂ひて、即ち其殿に在りて更衣お主るお以て名とし、亦御寝に侍せり、其位女御より下れるものにて、多く五位に過ぎず、罕に四位に進むものあり、亦升りて女御と為るものあり、此称は桓武天皇の更衣乙魚が、伊呂波字類抄に引く所の本朝事始、仁明天皇承和三年の条に見はれたるお以て始とし、冷泉天皇以下亦此職に居るものなし、源平盛衰記増鏡などに希に其名見えたるは古きお摸して写し出せるならん、かく此名の絶えしは、蓋し尚侍典侍の名お以て、御寝に侍するものあるに由れるなるべし、