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栄花物語
三十八松の下枝
一品の宮にまいらせ給ひし、侍従宰相〈◯源基平〉の御むすめ、〈◯基子〉うち〈◯後三条〉おぼしめすといふ事世にきこえて、たヾそなたになんおはしますなどいふ程に、たヾならずならせ給へり、おほかたもみやづかへさまにもあらずもてかしづき聞えさせ給て、たヾみやの御おなじことにて、御だいなど参らすることもひめ君の御だいとて、女房とりてまいらするに、ましてかくさへものせさせ給へば、いと心ことにもてなさせ給ふ、〈◯中略〉七月に尾張前司つねひらといふ人のいへにいでさせ給、このたびかへり参らせ給はんには、更衣などにてなんおはすべきといひのヽしる、いでさせ給夜は暁までおはしまし、御ともの人などのたちやすらふも昔物がたりの心ちす、さべきむつまじき殿上人御おくりすべき宣旨ありていとめでたし、殿ばらなど猶女こそもつべきものはあれなどめで給ふ、〈◯中略〉御息所更衣などにみな中じやう少将のむすめ受領のもみなまいりけるお、このちかき世にはおぼろげの人はまいり給はぬものにならひたるに、いとあさましきなり、〈◯中略〉三月〈◯延久三年〉九日いらせ給ふ、ぎしき有さまいとめでたし、車五六ひきつヾけていと心ことなり、女御になりていらせ給、更衣などいひしおだに世にめでたくめづらしきことに思申しお、けさやかにめでたくいみじく世にためしなきことに、世人このころのことぐさにしけり、