[p.1296][p.1297]
栄花物語
一月の宴
六月〈◯康保元年〉つごもりに、みかど〈◯村上〉の覚しめしけるやう、式部卿の宮〈◯重明親王〉の北方〈◯藤原登子〉はひとりおはすらんかしとおぼし出て、御文物せさせ給ふに、后の宮〈◯藤原安子〉の御おとヽの御かた〴〵おとこ君たち、たヾおやともきみとも宮おこそたのみ申つるに、ひおうちけちたるやうなるおあはれにおぼしまどふ、〈◯中略〉みやの北の方はめづらしき御文おうれしうおぼしながら、なき御かげにもおぼしめさん事、おそろしうつヽましうおぼさるヽに、そのヽち御文しきりにて参り給へ〳〵とあれど、いかでかはおもひのまヽにはいでたち給はん、いかになど覚しみだるヽ程に、おほんはらからの君達に、うへしのびて此事おのたまはせて、それ参らせよとおほせられければ、かヽることのありけるお、みやのけしきにもいださで、としごろおはしましけることヽおぼす、なにヽつけてもいとかなしう思いで聞え給、さてかしこまりてまかで給て、はやうまいりたまへなど聞え給へば、あべい事にもあらずおぼしたれば、いまはじめたる御事にもあらざなるおなど、はづかしげに聞え給て、この君たち同じ心にそヽのかし、さるべき御さまにきこえ給ふ、うちよりはくらづかさにおほせられて、さるべきさまのこまかなる事ども有べし、さはとていでたちまいり給お、御はらからの君たち、さすがにいかにぞやうちおもひ給へる御けしきどもヽ、すヾろはしくおぼさるべし、さて参り給へり、登花殿にて御つぼねしたる、それよりとして御とのいしきりて、こと御かた〴〵あへてたちいで給はず、故宮〈◯安子〉の女房、みやたちの御めのとなどやすからぬことにおもへり、かヽる事のいつしかとなる事、たヾいまかくはおはしますべき事かはなど、ことしものろひなどしたまひつらんやうにきこえなすも、いと〳〵かたはらいたし、御かた〴〵には宮の御心の哀なりし事おこひしのびきこえ給ふに、かヽることさへあれば、いと心つぎなきことにすげなくそしりそねみ、やすからぬことにきこえ給、まいり給てのちすべてよるひるふしおきむつれさせ給ひて、よのまつりごとおしらせ給はぬさまなれば、隻いまのそしりぐさにはこの御事ぞありける、わたりなかりしおり、あやにくなりしにやとおぼされつる御心ざし、いましもいとヾまさりていみじう思聞えさせ給てのあまりには、人のこなどうみ給はざらましかば、きさきにもすえてましとおぼしめしの給はせて、内侍のかみになさせ給つ、