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雑問答考
東宮春宮と書事答に、東宮とは、皇太子の御身おさすといふはさる事ながら、いか成故にさはいふといはぬは答のかひなし、先此御事おいと古へは日嗣の皇子命と申し、又某の皇子命とのみも申せし也、さて後に字にては、皇太子儲君など書たり、令など行はるヽほどより、その皇太子の御在所お東宮とかき、大夫以下官人の奉仕所お春宮と書つけたり、それより後々に、東宮と書は即皇太子の御身おさす事となりぬ、又此答に、春宮は坊に奉仕傅大夫雲雲と雲は誤れり、大夫以下は春宮に奉仕れり、傅と学士は輔導奉説の職故に、即太子の御在所に侍りて春宮坊にはいず、持統紀より以下の書に、皆東宮傅、東宮学士と有也、
 天智紀に、太子おさして東宮と書しことあれど、是は奈良の朝にて書し物のみ、