[p.1488]
紳書
此立太子〈◯東山〉の御時、勅使関東へ参向有しに、其人に親しき関東の御家人詣て物語せしに、今度立太子の御事にて御下向の由、路次の御疲労察入候、さて此度の御使こそうたてしき御事なり、抑天下の大体と申事お、何れも御存知なき故に、関東お始天下にて、朝廷へ帰し参らする様おこそ知し召れね、某承り伝ふるに、一の宮には御障子に取付給ひて御歎きありしお、其御手お引放て引立参らせて、御出家お成させ申、今の太子お立させ給ふ由、驚き恐入てこそ候へ、天子の第一の宮にてわたらせ給ふお、かくあらけなく引立参らせ、御心にも染まぬ御出家成させ奉りて苦しからぬ御事に侍らば、今一階押のぼせて、かゝる振舞致しても苦しかるまじき歟と存ずれば、さて浅ましき世には成下り候と涙にむせびて申されし程に、勅使も兎角の返答に及ばざりしとぞ、