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神皇正統記
皇極
この時に蘇我蝦夷の大臣、〈馬子大臣の子〉ならびにその子入鹿、朝権お専にして、皇家お蔑にする心あり、その家お宮門といふ、諸子お皇子となんいひける、上古よりの国記重宝、みな私宅に運び置きてける、中にも入鹿勃逆の心甚し、聖徳太子の御子達の科なくまし〳〵しおも滅し奉る、こゝに皇子中大兄〈〇天智〉と申すは、舒明の御子、やがてこの天皇御所生なり、中臣鎌足連といふ人と心お一にして入鹿お殺しつ、父蝦夷も家に火おつけてうせぬ、国記重宝はみな焼にけり、蘇我の一門久しく権おとれりしかども、積悪の故にや皆滅びぬ、