[p.1611][p.1612]
神皇正統記
二条
保元平治よりこのかた、天下乱れて、武用盛に、王位軽くなりぬ、未だ太平の世にかへらざるは、名行のやぶれそめしによれる事とぞ見えたる、かくてしばし鎮まれりしに、主上上皇〈〇後白河〉御中悪しくて、主上の外舅大納言経宗、〈後に召還されて、大臣大将までなりき、〉御めのと子の別当惟方等、上皇の御意に背きければ、清盛朝臣に仰せて召し捕へられ、配所に遣はさる、これより清盛天下の権おほしきまゝにして、程なく太政大臣にあがり、その子大臣の大将になり、剰へ兄弟左右の大将にて並べりき、〈〇中略〉天下の諸国は、なかば過ぐるまで家領となし、官位は多く一門家僕にふさげたり、王室の権、更になきが如くになりぬ、