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平家物語

清水えんしやうの事
仁安三年三月廿日の日、新帝〈〇高倉〉大ごく殿にして御そくいあり、此君のくらいにつかせ給ひぬるは、いよ〳〵平家の栄花とぞみえし、国母建春門院〈〇平滋子〉と申は、入道相国〈〇平清盛〉の北のかた、八条の二位殿の御いもうと也、又平大納言時忠の卿と申も、此女院の御兄なるうへ、内の御外せきなり、内外につけてしつけんの臣とぞみえし、其比のじよいぢもくと申も、偏に此時忠の卿のまゝなりけり、やうきひがさいはひし時、やうこくちうがさかえしごとし、世の覚え時のきらめでたかりき、入道相国天下の大小事おの給ひあはせられければ、時の人平くわんばくとぞ申ける、