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栄花物語
十三ゆふしで
東宮〈〇小一条院敦明〉なにの御心にかおはしますらん、〈〇中略〉皇后宮〈〇小一条院母娀子〉に、一生はいくばくに侍らぬに、なほかくて侍こそいといぶせく侍れ、さるべきにや侍らん、いにしへのありさまにこゝろやすくてこそ侍らまほしけれなど、おり〳〵に聞えさせ給へれば、みやはいと心うき御心なり、御物のけのおもはせたてまつるならん〈〇中略〉とて、所々に御いのりおせさせ給、〈〇中略〉との〈〇藤原道長〉のおまへにさるべき人して、かうやうになどまねび申させ給、〈〇中略〉殿まいらせたまへり、〈〇中略〉出家とまでおぼしめされば、いとことのほかに侍り〈〇中略〉など、よく御心のどかに聞えさせ給てまかで給ぬ、そのまゝにやがて大宮〈〇一条后彰子〉にいらせ給て、かう〳〵の事おなん春宮たび〳〵の給はすれど、さらにうけひき申さぬに、めしての給ひつるやうなど、こまやかに申させ給、〈〇中略〉さても春宮には三宮〈〇後朱雀〉こそはいさせ給はめと申させ給へば、大宮げにそれはさる事に侍れど、式部卿宮〈〇敦康〉のさておはしまさんこそよく侍らめ、それこそみかどにもすえたてまつらまほしかりしかど、故院のせさせ給し事なればさてやみにき、此たびはかの宮のいさせ給はんは、故院の御心のうちにおぼしけんほいもあり、宮の御ためにもよくなむあるべき、わかみやは御すくせにまかせてあらばやなん思侍るときこえさせ給へば、殿げにいとありがたうあはれにおほせらるゝことに侍れど、故院もこと事ならず、たゞうしろみなきにより(○○○○○○○○○○○)、かしこうおはすれど(○○○○○○○○○)、かやうの御ありさまは(○○○○○○○○○○)、たゞうしろみがらなり(○○○○○○○○○○)、帥中納言〈〇隆家〉だに京になきこそなどあるまじきことにおぼしさだめつ、