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大鏡
五太政大臣伊尹
このおとゞ、一条摂政と申き、〈〇中略〉御門〈〇冷泉〉の御おぢ、東宮〈〇花山〉の御おほぢにて摂政せさせ給へば、世の中はわが御心にかなはぬ事なく、くわさことのほかにこのませ給ひて、大饗せさせ給ふに、寝殿のうら板のかべすこしくろかりければ、俄に御らんじつけて、とかくみちの国の紙おつぶとおさせ給へりけるが、なか〳〵白くきよらに侍ける、おもひよるべき事かはな、御家は今の世尊寺ぞかし、御ぞうの氏寺にておかれたるお、かやうのついでにはたちいりて見給へれば、まだその紙のおされて侍るこそ、むかしにあへる心ちしてあはれに見給へれ、かくやうの御さかえお御らんじおきて、御年五十にだにたらでうせ給へるあたらしさは、ちゝ大臣〈〇藤原師輔〉にもおとらせ給はずとこそよ人おしみたてまつりしか、