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紫式部日記
御いかは霜月のついたちの日、れいの人々のしたてゝのぼりつどひたる、御前の有さま絵にかきたる物あはせの所にぞいとようにて侍し、〈〇中略〉こよひ少輔のめのといろゆるさる、こゞしきさまうちしたり、みや〈〇後一条〉いだき奉れり、御丁のうちにてとのゝうへ〈〇藤原道長妻倫子〉いだきうつし奉り給て、いざりいでさせ給へり、ほかげの御さまけはひことにめでたし、あかいろのからの御ぞ、ぢすりの御裳、うるはしくさうぞき給へるも、かたじけなくもあはれにみゆ、大みや〈〇道長女一条后彰子〉えびぞめの五への御ぞ、すはうの御こうちきたてまつれり、殿もちひはまいり給ふ、〈〇中略〉ことはつるまゝに、宰相のきみにいひあはせて、かくれなんとするに、東おもてにとのゝきんだち宰相中将〈〇兼隆〉など入てさわがしければ、ふたりみちやうのうしろにいかくれたるお、とりはらはせ給て、ふたりながらとらへすえさせ給へり、わかひとつづゝつかうまつれ、さらばゆるさむとの給はす、いとはぢておそろしければきこゆ、
 いかにいかゞかぞへやるべき八千とせのあまり久しき君がみよおば、あはれつかうまつれるかなと、二たびばかりずせさせ給て、いととうのたまはせたる、
 蘆たづの齢しあれば君がよの千歳の数もかぞへとりてん、さばかりえひ給へる御こゝちにも、おぼしけることのさまなれば、いとあはれにことわりなり、げにかくもてはやし聞え給にこそはよろづのかざりもまさらせ給ふめれ、千代もあくまじく御行すえのかずならぬこゝちにだにおもひつゞけらる、宮のおまへきこしめすや、つかうまつれりと我ほめし給て、宮の御てゝにてまろわろからず、まろがむすめにて宮わろくおはしまさず、はゝもまたさいはひ有とおもひてわらひ給ふめり、よいおとこはもたりかしとおもひたんめりと、たはぶれきこえ給もこよなき御えひのまぎれなりとみゆ、さることもなければさわがしき心ちはしながら、めでたくのみきゝいさせ給、とのゝうへきゝにくしとおぼすにや、わたらせ給ひぬるけしきなれば、おくりせずとて、はゝうらみ給はん物ぞとて、いそぎて御丁のうちおとほらせ給、宮なめしとおぼすらん、おやのあればこそ子もかしこけれとうちつぶやき給ふお、人々わらひきこゆ、〈〇又見栄花物語〉