[p.1641]
大鏡
三太政大臣実頼
これたゞひらのおとゞの一男におはします、小野宮のおとゞと申き、御母寛平法皇〈〇宇多〉の御むすめ、〈〇傾子〉大臣位にて二十七年天下執行、摂政関白し給ひて、二十年ばかりやおはしけん、〈〇中略〉大かた何事にも有職に、御心うるはしく御はします事は、よのつねの人の本にぞひかれさせ給ふ、おのゝみやの南おもてには、御もとゞりはなちていでさせ給ふ事なかりき、そのゆえはいなりのすぎのあらはにみゆれば、明神御覧ずらんに、いかでかなめげにてはいでんとの給はせていみじくつゝしませ給ふに、おのづからおぼしわすれぬるおりは、御袖おかづかせ給ひてぞおどろきさわがせ給へる、このおとゞの御女〈〇述子〉ぞ、女御にたゝせ給ひにき、村上の御時にや、たしかにおぼえ侍らず、