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大鏡
五太政大臣公季
このおほきおほとの〈〇藤原公季〉の御はゝうへは、延喜の御門〈〇醍醐〉の御女、女四宮〈〇康子〉ときこえさせき、〈〇中略〉この太政大臣おはらみたてまつり給ひて、〈〇中略〉つひにうせさせ給ひにし、〈〇中略〉このうみおきたてまつらせ給へりし太政大臣殿おば、御あねの中宮〈〇村上后安子〉さらなり、よのつねならぬ御ぞう思ひにおはしませば、やがてやしなひたてまつらせたまふ、うちにのみおはしまして、みかど〈〇村上〉もいみじうらうたきものにせさせ給へば、つねには御前にさぶらはせ給ふ、なに事も宮たちの御おなじやうにかしづきもてなし申させ給ふに、御ものめす御だいのたけばかりおぞ一寸おとさせ給ひけるおけぢめに、しるきことにはせさせ給ひける、むかしはみこたちもおさなくおはしますほどは、うちずみせさせ給ふ事なかりけるに、このわか君〈〇公季〉のかくてさぶらはせ給ふは、あるまじき事とぞしり申せど、かくておひたゝせ給へれば、なべての殿上人などになずらはせ給ふべきならねど、わかうおはしませば、おのづから御たはぶれなどのほどにも、みな〳〵にふるまはせ給ひしなれば、円融院御門おなじほどのおとこどもとおもふにや、かゝらであらばやなどぞうめかせ給ひける、又御むまごの頭中将公成君おことのほかにかなしがり給ひて、うちにも御車のしりにぐせさせ給はぬかぎりはまいらせたまはず、さるべきことのおりも、この君おそくまかりいで給へば、弓場殿に御さきばかりまいらせ給ひてぞまちたゝせ給へれば、見奉り給人なんかくてはたゝせ給へると申させ給へば、いでまかり侍る也とぞおほせられける、