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十訓抄

花山院御時、中納言義懐は外戚、権左中将惟成は近臣にて、おろ〳〵天下の権おとれり、然るお帝ひそかに内裏お出、花山に幸給由お聞て、両人追て参上の所に、帝已に比丘たり、惟成もとゞりおきる、又義懐に語て雲、外戚として重くおはしつるに、外人となりて今更に世に交らん見ぐるしかるべし、早く出家すべしと、義懐此由お存じて同く出家す、人の教訓にてしたれば、いかゞと時の人思ひけるに、始終とふとくて、飯室に住てよまれける、
 見し人もわすれのみ行山里に心ながくもきたる春かな〈〇又見大鏡、古今著聞集、袋草子、〉
 〇按ずるに、古事談に惟成の語お以て、義懐の語と為せるは誤れり、