[p.0010]
兎園小説
七集
金霊并鰹舟の事 今滋乙酉春三月、房州朝夷郡大井村五反目の丈助といふ百姓、朝五時比、苗代お見んとて立ち出でヽ、こヽかしこ見過し居たるおり、青天に雷のごとくひヾきて、五六間後の方へ落ちたる様なれば、丈助驚きながらも、はやくその処に至り見れば穴あり、手拭お出だしてその穴おふさぎ、おさへて廻りお堀りかヽり見れば、五寸程埋まりて、光明嚇嚇たる鶏卵の如き玉お得たり、これ所謂かね玉(○○○)なるべしとて、いそぎ我家へ持ち帰り、けふはからずも、かヽる名玉お得たりとて、人々に見せければ、是やまさしくかね玉ならん、追々富貴になられんとて、見る人これお羨みける、〈◯中略〉 文政八乙酉初秋朔 文宝堂誌