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甲子夜話

或人書お贈て曰、この正月〈◯文政五年〉廿一日巳刻頃太陽に暈あり、五彩お成し、その暈は輪違の如き形なりしとぞ、やがて白虹出て日お貫しと雲こと、大分観し者あり、〈◯中略〉輪違の如き暈と雲もの、乃交暈歟と、此こと予〈◯松浦清〉は知らざりしが、予が邸内にも観し者多し、其始めは五つ半頃、天色朦朧たる中、日光こもりて見ゆ、其傍に余程へだヽりて、又日光の如く小き光のこもりたる見へしが、四つ前頃、又朦朧の中光明はなけれども、日象隠翳お隔てよく見ゆ、其少し傍に下りて、月輪の如きもの亦掩中に見ゆ、夫より九つ半頃、暈至大にして二つ、上下に輪違の如くありける、日輪は何くに在けん心つかざりしと、八つ半頃、日輪嚇々と耀き、余ほどわきに白き暈、殊に大きく見えしと、かヽれば朝より昼お過るまで、次第に其象お変ぜしなるべし、