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壒嚢抄

恒娥と雲は何なる事ぞ恒娥は月の異名也、遊仙窟に恒娥月人女也と読めり、実には人名也、恒娥は羿が妻也、作仙薬以欲服之、然恒娥偸服之、成仙人、奔て入月中雲々、仍爾雲也、羿は有窮の君也、簒夏后相位と雲り、昔精兵の射手也き、されば論語曰、羿善射と雲々、加之月異名多侍り、銀句 玉句 銀光 玉鏡 金魄 金波 菟輪 菟影 兎魄 兎月 桂輪 桂影 仙蛾 陰精 虚弓〈繊月名也〉 蛾眉〈同上〉 破鏡〈半月也◯中略〉御空行月読壮子ゆふさらす目にはみえ子どよるよしもなき、と侍り、月神おば月弓の尊共、月夜見の尊共、月読神共、尊共申也、やいゆえよは相通なれば、同じ御名なるべし、亦月人男共雲り、〈◯中略〉童蒙抄雲、月夜見男とは桂男也と雲々、然ば月人男も桂男也と雲べし、世人の思はく、月中に桂木有、其木の本に人有、是お桂男と雲と、されば月の桂と雲、月兎と雲桂男なんと雲、皆是月の中に有と雲共、皆隻月の名に出せり、 然に空に見るは月輪也、月天子は其の上に住給となん、月天子は即月神也、されば月輪お月の船共雲、月天子お月神共雲は、月読男、月人男、佐散良衣男、桂男、皆同く月名也共雲へり、