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碩鼠漫筆

朧夜の語例
或歌読の先生いへらく、近人の歌お見るに、朧夜といふ語おほし、古人は常に朧月夜とつヾけて、おぼろ夜とはおさ〳〵いはざりきといへり、春村按ふに、こはよろしげなる心づきなれど、古今六帖第五帖に、墨染のたそがれ時のおぼろ夜にありてし君にさやにあひみつ、とまづは見ゆれば、ふつになしとはいひがたかるべし、但し李花集の詞がきに、朧夜の月のひかりによもすがらあくがれて雲々、又碧玉集に、花かすむゆふべおとへばおぼろよの月にもなりぬおちかたのさと、など後世には猶おほかるべし、