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甲子夜話
四十一
癸未〈◯文化六年〉の十月十九日、宵間のことにて、月お望たるに、はや輪も欠たれども、晴光は昊々たり、側ら一尺余に星在て又鮮明なり、予以為く常星に非ず、若くは五星の中ならんと、司天館に問遣りたれば、答に木星なり、恒星とも雲ふ、同度とて此事度々あることなり、月に迫りたるお逼近と称し、月お貫くお凌犯と称すと、これ等運行の常なり、然るお世の人は近星とて凶象とす、〈同度とは、月と星と同度と雲ことなり、木星の分野へ月かヽり、南北線直線になれば、何れの所にても同度す、星行は遅く、月行は速きお以て、会合は定らざれども、時々あり、月は順行なれども、木星は太陽の遊輪お廻り、行度に順逆あれば、同度の速きとき、遅きときあり、五星共に然れども、その中水星は太陽に近く廻れば、四星の如く凌犯はなしと雲、〉