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台徳院殿御実紀附録

いつの比にか、彗星北方に現れしかば、騒乱の兆なりとて、世にいひもてなやむお聞玉ひ、人々よく考へみよ、大空の中にかヽる一星が出て、その兆は何くの国にあたるなどいふは、児童の見なれ、善悪とも天に現るほどならば、世人なにおもてのがるべきと仰られて、少しも御懸念の様おはしまさヾれば、いづれも安意せしとぞ、むかし晋の孝武帝の時、長星の現れしおみて、長星女に一盃の酒おすヽむ、いにしへより万歳の天子なしといひしにくらべ奉れば、公の天命に安じ、御身に立反り玉ひて、御自修ありしは、いと及びがたき御事にぞ、