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春波楼筆記
文化八年未七月立秋の頃より、彗星初昏西北の方北斗の上に、大尊と大陽守との間に麗りて、尾の光芒長からず、亦暁東西に現れて、尾の光芒長し、白露、秋分、寒露、霜降、立冬と漸々南東に昇りて尾も長く、天頂お過ぎて、小雪、大雪頃に至りて、河鞁の少し上に留まりて、尾も漸々短く、冬至の頃に天に昇りて、竟に肉眼に見えず、又巳の年に彗星現れし時は、天頂より少し西によりて、光芒も至りて薄し、初昏より戌の時頃まで見えて西に落ちて、二十余日お経て天に昇る、彗星、勃星天上にある事、其の数お知らず、亦行環も悉く異なりて、黄道より斜絡して、其の環亦楕円なり、西洋人といへども、いまだ推歩窮理せざる者乎、