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今昔物語
十二
山階寺焼更建立間語第廿一今昔、大織冠子孫の為に山階寺お造り給ふ、〈◯中略〉而る間三百余歳に成て、永承元年と雲ふ年の十二月廿四日の夜始て焼ぬ、〈◯中略〉二年の間に造畢て堂舎皆成ぬれば、同三年と雲ふ年三月二日供養有り、長者公卿已下お引将て下て、法の如く供養せらる、其の導師は三井寺の明尊大僧正也、請僧五百人、并に音楽お調て専に心お至し給ふ事無限し、而るに其の供養の日寅時に仏お渡し給ふに、雨気有て空陰て暗くして星不見子ば、時お知る事不能ず、陰陽師安倍の時親と雲ふ者有れども、空陰て星不見子ば、何お注しにてか時お量らむ、可為き方無しと雲ふ程に、風も不吹ぬ空に、御堂の上に当て、雲方四五丈許の程晴れて、七星明かに見え給ふ、此れお以て時お見るに、寅二つに成けり、作喜ら仏渡り給ぬ、空は星お見せて後、即ち本の如く陰ぬ、〈◯下略〉