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倭訓栞
前編六加
かすみ 霞およめり、赤染(あかそみ)の義也、唐韻に日辺赤雲也と見えたり、あかねさす日といへるも此義也といへり、烟も同じ、うすかすみお薄烟といふ、全析兵制に、霞おやけと訳せしも亦此義也、俗に朝やけ夕やけなどいへり、秋に霞お詠ずる事万葉集に見え、文選の詩に軽霞冠秋日とも見えたり、歌に多く春霞などいへるは霞にあらず、謁( の)字お用べしといへり、霞しくといふ辞は、喜撰式に春おいふと見えぬれど、万葉集にも見えず、中比より人の好みよむ言葉となれりとぞ、歌に霞の衣、霞の袖、霞の窓、霞の籬、霞の沖、霞の網、霞の波、霞の水尾などよめるは、皆見たてたる詞也、曹文姫が詩に、霞衣曾惹御炉香とも見えたり、