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梅園日記

朝あけ 七玉集に、家良、山のはもかすむと見ゆる朝あけ(○○○)にやがてふりぬる春雨の空、按ずるに、朝あけのあけはあかきおいふ、今いふ朝やけなり、あの声のやのごとく聞ゆるは、歌合、根合などのたぐひ也、又新撰六帖に、衣笠内大臣、山のはにほてりせる夜はむろの浦にあすは日よりと出る船人、とよみ給へるは、夕あけ(○○○)にや、されば朝あけは雨、夕あけは日よりと、ふるくよりいへる諺なるべし、唐国にても、範成大石湖居士詩集の題に、暁発飛鳥、晨霞満天、少頃大雨、呉諺雲、朝霞不出門、暮霞行千里、験之信然、 升菴集に、素問雲、〈按、素問六、元正紀大論、倒此二句、〉霞擁朝陽、雲奔雨府、楚辞雲、紅蜺紛其朝霞、夕淫淫而淋雨、唐詩雲、朝霞晴作雨、俗諺雲、朝霞不出市、 升菴外集に、儲光義詩、落日焼霧明、農夫知雨止、耿緯詩、向月微月在、報雨早霞生、〈◯中略〉また朝やけ夕やけともいふべくや、〈◯中略〉上に引る衣笠大臣の御歌、山のはにほてりせる夜、とよませ給ひしは、夕あけにはあらぬにや、さらば田家五行に、日没返照主晴、俗名日返塢と、是なるべし、