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玉勝間
十四
万葉集の露霜 万葉集の歌に、露霜とよめる、巻々に多し、こは後の歌には、露と霜とのことによめども、万葉なるは、みなたヾ露のこと也、されば七の巻、十の巻などには、詠露といへる歌によめり、多かる中には、露と霜と二つと見ても、聞ゆるやうなるもあれど、それもみな然にはあらず、たヾ露也、これにさま〴〵説あれども、皆あたらず、そも〳〵たヾ露お、露霜といはむことは、いかにぞや聞ゆめれども、此名によりて思ふに、志毛(しも)といふは、もとは露おもかねたる総名にて、其中に氷らであるお、都由志毛(つゆしも)といひ、省きて都由(つゆ)とのみもいへる也、そは都由は粒忌つぶのよしにて、忌(ゆ)とは清潔(きよら)なるお雲、雪の由(ゆ)も同じ、さればつゆしもとは、粒だちて清らなる志毛といふことにぞ有ける、